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2009年11月13日

異界皇子 最終章 バトル2

 「閻浮、水影破だ」吐駁は叫んだ。
 「スイエイハ?」
 「おまえの心の底にいる爺を呼び出せばいい。その剣は水をも操れる」
 教えられたわけではないが、閻浮は汰迅炎剣を身体の正面に構え、二度三度深呼吸をする。
 鼻を半分切り取られた巨象は立ち往生している。
 天から雲、いや水柱が伸びてきた。それは巨大な怪物の姿をおし包み、巨体を持ち上げた。
 その様子を守備隊員らはつぶさに見た。
 閻浮が剣を振ると、柱は渦となり、巻き込まれた怪物を翻弄した。その周囲で雷光が二度、大音響とともにはぜた。
 どすんと、重たいものが落ちる音がして、渦は上空へと消えた。
 動かなくなった翳から三つのもやもやしたものが立ち昇ってゆくのを両雄は確認した。
 「安寧に滅せよ。異界の魂たちよ」
 吐駁は九字の法印を身体の正面でむすび、両掌を巨象にかざした。
 めちゃめちゃに壊れている中核棟を背景に、そのシルエットは自ら発火した黄色っぽい燐光にかすんだ。同時に遊離した三つの霊体は消えていった。
 両雄は通りに面している正門を振り返った。そこには一頭のサイがいた。
 前脚を交互に動かし、すっかりファイティング・モードだ。
 「やれやれ…」
 吐駁にしては弱音に近い慨嘆。
 「王様、いいアイデアがあるぜ」
 年長獅子が宝剣を鞘から抜こうとしていたまさにその時、閻浮は投げかけた。
 「池の周りはたぶん魔法障壁だろうから、こいつを利用してやるのさ」
 ひっくり返った戦車のもとに閻浮はすばやく近づくと、渾身の力でキャタピラを剥がしにかかった。
 吐駁はサイの注意を惹きつけておいてから、閻浮はふたたび抜いた宝剣をキャタピラに触れさせた。ぱっと炎が一瞬きらめいて、それは細くて輪状の鎖に変貌を遂げた。
ラベル:巨象
posted by はむじの書斎 at 22:07| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月28日

異界皇子  別ヴァージョン

 筆者の都合により、「異界皇子」は2〜3日休筆とさせていただきます。
 現在、第5章の追加分を執筆中だからです。
 楽しみにされている読者の皆さんには申し訳ありません。
 第5章の後は、怒涛の第6章が(最終章)が。
posted by はむじの書斎 at 17:49| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月15日

異界皇子 第5章  院内

 屋上から院内に通じる扉には鍵がかかっていなかった。返ってそれは彼の警戒感を強めた。
 吹き出る生温かい風とともに、そっと鉄扉を閉める。正面のエレベータはまだ生きているようだが、彼はそれを選ばなかった。左横の非常階段をスニーカーで降りた。 
 「7」と白壁に緑字で大きく塗られている踊り場まで来た時、蛍光灯が消えた。間髪を入れず、朱っぽい非常灯がついた。上と下で扉の開く音と閉まる音が反響する。
 「上は四、下は五…、おいでなすったな」
 彼の足音の予想はぴったりだった。敵意の充満に挟まれるのも彼には肌で痛いほど感じ取れた。
 鉄でできた階段を、一階ぶんだけ降りてみた。
 眼下の敵、その先頭は医師らしかった。白衣に身をつつみ、縁なしメガネの奥にあるにやつく瞳。左手に手術用メスの束。そいつは口を開いた。
 「貴様には逃げ場がない。観念するんだな、閻浮」
 医師の姿を借りた何者かは、彼の正体を知っていた。
 「オレが誰だかわかっているなんざ、いよいよ本丸が近いってわけか。さてはオレの思念でもなぞったか」
 「金剛山の森で貴様に殺された爬虫族別働隊隊長。貴様は忘れても、オレは忘れねえ」
 非常階段の傾斜   背後上方に男三人、女一人の壁。前方下の踊り場に男三、女二の障害。退路は断たれた。
 「覚悟しな! 地獄へ行け」
 男の掌がひらめく。メスは音もなく銃弾に近い速度で飛んできた。純一は身体をひねった。間一髪でそれた兇器は鉄製の階段に衝突し、かわいた音を立てた。
 「あばよ」
 少年は前方に跳躍した。唖然とする集団を尻目に、一気に10メートルを短絡し、下から上がってきた連中の背後につけた。そのまま軽い身のこなしで階段を風のように翔けてゆく。「2」の踊り場を下ったところで、彼の脚は止まった。
 スチール製の机、椅子、ロッカーなどがうずたかく、天井まで積まれていた。用意周到もここまでくれば呆れるほどだ。彼らの背後に皇太后がいるのは火を見るより明らかだった。
 「ちっ、手際のいいこった」
 それらを押しのけている暇はなかった。階段をティンパ二の乱打よろしく降りてくる足音があった。少年は三階まで戻り、鉄製の扉に手をかけた。鍵がかかっていた。わずかだが、きな臭さが鼻孔を刺激した。いやな予感…。
 「逃げられるとでも思ったか、裏切り者が!」
 医師らしき男を先頭に、憑依集団が迫っていた。
 閻浮は精神を集中した。
 息を吸う   吐く   吸う。
 右手に全身の力がこもり、扉は悲鳴をあげた。と同時に灼熱の空気と煙が堰を切って押しよせてきた。
 高熱の空気を吸いこみそうになり、あわてて呼吸を止めたが、扉内部の視界は無きにひとしかった。しかし、悪影響ばかりではない。気味の悪い集団もそれで全員が咳き込み、戦意をそがれていた。
 桃色のマフラーを口に当て、少年は走った。一面火焔の花畑を。グランドコートは放棄した。
 強烈な熱の輻射で全身が蜜柑色に染めあげられ、天井が舞い散る火の粉とともに落下してきた。
 そこはかつて両側に病室のある廊下だった。純一少年は膨大な落下物の下敷きになった。
 (しまった、ここまでか…)
 いつもの表情たる彼(閻浮)も、悲観というもっとも忌むべき重荷につぶされかけている。後方から中身が爬虫族の亡霊たちがメス片手に追いすがる。しかし、逆側から影が走りよってきた。
 閻浮は混濁しかける意識の中で幻を見た。焔と煙の狂宴のさなかで、追手が倒されるのを。そして胸から下を圧していた建材がとりはらわれた。そこにふと見たのは誰あろう、吐駁王……そのりりしい姿だった。
 「あ、あんたは…」
 「何も言うな。行くぞ」
ラベル:火災
posted by はむじの書斎 at 15:12| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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