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2009年11月15日

異界皇子 最終章 封印

 未明の夜空に逆さまに伸びる白色の滝…ふたりは池のほとりから跳びこんだ。
 彼らが地上から消えてしばらく   「逆流現象」が発生する。闇に打ちあがるばかりだった白色花火は一転、排水孔にひきこまれる水よろしく渦を巻いて集まりはじめた。朝、事態は沈静化の一途をたどることになる。
 猛々しかった光と、周囲の火災による煙との狂宴がおさまると、そこには“池”ではなく、小山が出現していた。黄褐色のごつごつした岩山が。
 午前8時すぎ、平時であれば通勤ラッシュが開始されるころであるが、4月のその日の様子はかなり趣が異なっていた。まず駆けつけたのは自衛隊のジープ、そしてカーキ色のトラック、やや遅れて救急車であった。
 防毒マスクの物々しいいでたちの隊員らは周囲を改めて立ち入り禁止にするとともに、近辺の屍体をかたづけはじめた。彼らには「どうして混乱が終わった」のか、疑問にふける余裕もなかったものの、胸をほっとなでおろす者が多かったのも事実である。
 道庁本庁舎は特に2階部分がひどく焼けただれ、庭に面した窓ガラスがほとんど割れていた。時間の経過にしたがい、被害状況が深刻さを増すことになる。何も道庁に限らず、人身、社会資本面でも。
 
 畜生界に舞い戻った獅子ふたりがその後どうなったのか、人間界の中江綾という女の子は若いほうの安否を気遣ったものだ。もっとも、彼女は吐駁の登場さえ知る由がなく、純一こと閻浮とはあの晩以来ぷっつりと連絡が取れなかった。
 また、死者の出た家庭は別としても、たとえば綾の家は日を追うごとに日常を回復していった。彼女の家の主・章太郎は奇跡的に無事だった。
 事件発生当夜、会社の次長席で残業中であった彼は異常を察知するや否や、部下ひとりとともに奥の会議室にこもった。結果的にそれが幸いしたのだが、世間話のタネの底がついたふたりは支社長室の棚からスコッチウィスキーのボトル一本を失敬し、湯呑み茶碗でくみかわしはじめる。ちなみに彼も部下も家に連絡を取ろうと三度以上こころみたものの、すべて通じなかった。
 章太郎が憶えているのは「支社長のバカヤロー」と絶叫したことであった。部下は「あいつは稚内支店!」と唱和し、それっきり章太郎の意識は途切れた。ちなみにその会社に稚内支店は存在していない。
 火災の余韻をひきずった煙なのか、朝靄なのかよくわからず、自衛隊と警察車両がひっきりなしに行きかうくたびれた市街に出たふたりは交通が麻痺していることを知り、ゆるめたネクタイのままおのおのの家路につくのだった。むろん、原始的交通手段の「徒歩」で。
ラベル:畜生界 人間界
posted by はむじの書斎 at 15:42| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月14日

異界皇子 最終章  疾駆

 サイの背中に、先頭が閻浮、その背後に吐駁がまたがり、鎖の手綱は口角につながっていて、若いほうが握っていた。
 サイはごくあっさりと精神を閻浮にあけ渡していた。それの闘争本能は心の引き出しの中に、とりあえずは棚上げだ。吐駁が操心術を使っていたためでもある。
 閻浮には「池」方向がすぐにわかった。邪気の集中を感じたからである。
 地下鉄駅を出てから、彼は道すがら人間の、とある中年男性がいないかと眼をくばったものの、一般の通行人が極端に少ないのではどうにもならなかった。街角のそこここに立っている自衛官・機動隊員らは、こちらに一様に奇異の視線を飛ばしてきている。
 「池」まで残りわずかな路上。ジープが2台、逆ハの字になって車両通行は禁止だ。
 その簡易車止めをやすやすと、ふたりと一匹は突破した。
 今度は警備隊員らが黙っていなかった。
 「そこの動物にまたがってる二人! 直ちに降りて戻りなさい」
 拡声器の苛立たしい声。
 彼らの中には機動隊員もおり、催涙ガス銃を6人が同時にかまえた。
 道の両端からその引き金が引かれると、ほぼタイミングを同じくして、閻浮はサイをけしかけた。手綱をしぼり、両脚でそれの胴体を蹴る。
 吐駁は危うく後方に反りかえるところだったが、すぐれたボディーバランスで年少獅子にしがみついた。
 催涙弾は白い航跡を曳いてふたりと一匹の後方をなめた。むろんそれらは彼らにダメージを与えることはできなかった。
 生きた弾丸が通りを駆けぬけた。
 前方に淡く、白く光っている壁が迫ってきた。魔法障壁である。
 サイにそれが見えたかどうかはわからない。
 「王様、跳んで降りてくれ」
 と閻浮は乞い、彼も進行方向左に跳び降りた。
 乗客を降ろしたサイは、口に手綱をくわえたまま直進した。
 バリッという衝撃音。3トン近いサイの巨体は障壁にもろにぶつかった。鼻の真上にある長い角が折れたが、障壁にも穴が開いたのだった。
 サイはそこにへたり込んだ。
 「今だ、行くぞ」と、吐駁は言いながら、視線を閻浮に合わせるのだった。
ラベル:猛獣
posted by はむじの書斎 at 14:42| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月11日

異界皇子 最終章  バトル1

 東京以北随一を誇る歓楽街にひときわ大きな火の手が挙がった。それまで電力供給の断たれていた夜のゾーンを占拠していたのは妖虫、つまり体長1メートルを越すムカデ、サソリの類だった。
 焔は地下鉄の出入り口、吸排気ダクトからあいついで巨大な舌を出す、続いて稲妻と突風がビルの谷間を疾駆することになる。
 それは、市内各所で起きていたパニックと一線を画した。
 夜の街にわずかに残っていた酔客の証言によると、〈ライオンのようなコスチュームをまとった人間ふたりが青と紅に光る剣をそれぞれ振りかざしながら気色悪い巨大虫どもを退治し、南西方向に走り去った〉そうである。

 巨象は、北部方面司令部の中核棟をなかば壊していた。
 守備隊員の死者もすでに8に達している。だが、地下の指令本部はかろうじて持ちこたえていた。と言うよりも、彼らにはなす術がなかったのである。
 密度を増す夜気のなかで、巨象はふと二つの獣族の霊氣を感じ取り、振り返った。
 吐駁と閻浮がそこにいた。
 邪魔者   いや、標的がふたりそろってようやく現れたことに、巨象の眼はぎろりと光り、ありあまる膂力で突進しようとしたとき、吐駁と閻浮は、それぞれ手にした剣を、ゆっくり、夜気を切りさくように振りはじめた。
 破壊された施設群をバックに、長い鼻でふたりの獅子に致命的衝撃をあたえた、はずであったが、ふたりは同時に側方に跳んだのである。
 上空の天候が激変しはじめていた。
 雷雲が湧きおこり、突風が吹いてきた。
 雷鳴がとどろきわたる。巨象が「パオー」と雄叫びをあげる。
 吐駁は剣を高く片の腕でさし上げた。
 稲妻が風迅雷剣をめがけ、落ちてきた。剣全体が大きな光電球となる。
 数秒の時を経、バリバリとした異音とともにひと筋の雷光が巨象の額中央部を撃った。
 それの動きは停止した。が、それは一瞬であった。
 額に血をにじませた怪物は、まさに手負いとなり、吐駁に向かって来ようとする。彼は巨象をけん制していたのだ。
 剣をかまえた閻浮は素早く動き、続けてそれを振りかぶりながら宙を跳んだ。
 とんぼを一回切っておいて、剣を振りおろした。
 巨象の長大な鼻が、鮮血とともに真っ二つになった。

  お待たせをいたしました。いよいよ最終章の始まりです。手を加えるのにすごい時間がかかりました。
  もっとコンスタントにアップできれば、と願っています。
posted by はむじの書斎 at 16:33| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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