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2009年11月22日

異界皇子 最終章 脱出

 すべてが鳴動を開始したさなか、巨大な樽5つがふたりを取り巻き、見下ろしている。
 それらは家臣団らの魂が封入されていたものなのだが、目を瞠る若獅子を尻目に、前王は剣を抜く。一閃とともに風迅雷剣の刀身が碧白く輝き、普段は封じられている力が真一文字に右端の樽に向かった。
 稲妻の力でこっぱみじんになった木材の砕片が飛び散って、もうもうとたちこめた煙が晴れると、そこには磐船があった。
 吐駁はわが子をうながし、席につくと鍵を使って船を始動させた。火矢のごとく天から降ってくる落下物。そして螺旋階段はすでに崩壊をはじめている。船はふわりと浮いていた。大岩をひとつかわす。閻浮は座席で神妙、というより正直びびっていたのだが、彼の父親はなぜか立ちあがる。
 「はーっ」
 気合いに動作が重なった。剣を頭上で回した。
 ひときわ太く、碧い雷電が発生して下方へ向かう。鼓膜がねじれんばかりの雷鳴、加えて轟音   床が抜けた。
 ふたたび席についた吐駁は息子の肩を一度ぽんとやると、吹き出ていく風に磐船ごと身をまかせた。
 虹の緩衝地帯に躍り出た閻浮が目にしたもの。それは炎にくずれ、下方にしずみゆく王城の末路だった。また、上空は七色が波打ってよじれていたが、間もなく周囲と変わらなくなった。

 「オヤジよぉ、脱出したのはいいとして、これからどこへ行くんだ。オレらの世界はもう先がないんじゃなかったのか」
 静かに航行する船の上で息子が尋く。
 「それはちがう。私たちの世界は滅びぬぞ」
 「……?!」
 吐駁の言葉は確信に満ちていた。
 「颶艶に巣食っていたのは、800年も生きてきた爬虫族の長・豸だ。あやつがもくろんだのは、この世界が滅亡するように見せかけて、大挙してわれわれ獣族が人間界に移ったすきに、支配権をうばうことだった」
 「し、しかし現に砂漠化と竜巻はひどかったじゃねぇか」
 閻浮は座席から半分身をのりだした。
 「たぶん豸の妖力でそうなったのだろう。気候を狂わせるとは、並みの力ではできぬ芸当だがな。……だが、親玉が死んで地上は力のない残党ばかりだろう。さて、これからわれわれの地上に戻るとするか。再建のために」
 「あちらに開いた穴はどうなる? また誰か向こうに行っちまう、なんてことはないのか」
 若獅子はやや奥歯にもののはさまった貌をしている。
 「心配はいらぬ。あとは主上様が処置なさるだろう。しかし、また向こうに一番行ってみたいのはお前ではないのか?」
 「い、いやぁ…」
 閻浮は歯切れが悪くなってしまい、ぷい、とあちらを向いた。
ラベル:風迅雷剣
posted by はむじの書斎 at 15:58| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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