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2009年08月24日

異界皇子 第2章  敵

 「信賞必罰」とすれば聞こえがいい。
 彼らの前に宝杖を持ったまま立ちあがって陶然としている女帝に対し、もし多大な功績があれば取り立てられ、高い地位が約束される。しかし、一度でも失態を犯せば待っているのは抹消処分   すなわち「死」であった。
 「かたづけなさい」
 近くの大扉が開き、入室してきたのは真っ黒な熊男ふたりである。うやうやしく頭を下げ、撥水布の近くに歩みよると、それぞれが斬られた頭部を抛りこむ。二頭はかるがると血だらけの亡骸の載った布を両端から持ち上げ、表情のひとつも変えずに退出していく。
 皇太后は侍従のひとりから召しだされたスカーフで顔面の返り血をぬぐい、居ずまいを正した。
 広間を埋める家臣たちも平静さをとりもどしたように映るが、身につけた衣の下ではほとんどが冷水のような汗を流しているのだった。
 またも彼らは恐怖の箍(たが)で王族と家臣をたばねる皇太后の実力を思い知った。
 吐駁王の時代はこうではなかった。彼は下臣団や領民の言い分にできるだけ耳をかたむけ、誰もが一応納得のゆく形で政策を実行していった。
 ちなみに魅蕾は当時の重臣のひとりであり、彼は幼い閻浮を引きとって育てていたのだ。
 吐駁の時代にも罰はあった。しかし、公衆の面前で斬首するような破廉恥はしなかった。
 今や颶艶は玉座にどっかりとおさまり、宝杖を元に戻し、床についていた。
 「皆の者、聞くがよい。吐駁と閻浮はこともあろうにこの世界を脱出し、われの進めている計画を阻止しようとたくらんでおる…。周知のとおり、この世界の寿命は永くない。人間界をこちらのものにせねばわれも、ここに参会の皆も共倒れの運命があるのみだ。あの者どもたったふたりでどれほどのことができるとも思えぬが、用心に越したことはない。入れ」
 ぱん、と最高権力者は両手を打ちならした。
 黒頭巾、黒マント、そして腰に剣を差した者が、いつの間にか後方から未だ血の臭いのぬけない玉座前に進み出る。その者は片のひざをついて拝謁した。
 「苦しゅうない。頭巾をとるがよい」
 「おおっ」
 どよめきが反響する。
 「先日の闘い、大儀であった。傷はもう癒えたか」
 敵の敵は味方なのであろうか。事もあろうに爬虫族戦士を、颶艶はいたわっていた。
 「あやつめへの復讐心が、私をここまで回復させました」
 蜥蜴の眼差しが深緑の鱗の間隙でふたつ、踊るようにかがやいた。

  第2章  了    第3章へつづく
タグ:焚風
posted by はむじの書斎 at 17:48| Comment(1) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
来てみました。
……が、まだ作品を読ませていただいておりません。すいません。
読んだら感想など書かせていただきますね。

ということでよろしくお願いします。
Posted by 仁木竹 新 at 2009年08月25日 00:34
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