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2009年07月28日

異界皇子 第1章  俗物教師

 「いいですねェ、こんな日は」
  もの思いにふけっていた青山は現実に引きもどされた。となりの机から数学教師の奥津が声をかけてきた。
 「……?」
  青山は奥津の、四十前だというのに“バーコード”状態になっている頭にちらと視線をくれた。
 「テスト期間中はこの時間、生徒がいませんでしょ。クラブ活動だってありませんしネ」
 「静かなのがそんなにいいですか」
 「そりゃそうでしょう。面倒なことは起きません。いったん騒ぎだしたら…、あいつら何やらかすかわかりませんから」
  奥津は午後五時をすぎると判で押したように帰宅する。だから彼のあだ名は『時報』だ。それを本人は知らない。
 「…しかし、生徒と肌で接するのが教師の役割でしょう。面倒ごとを避けてばかりいたら、先生、最後に重いツケが回ってくるかもしれない…。そう考えたことはありませんか」
 「それだから青山先生は考えが古い。いいですかァ、これからの教師ってのは生徒とはそこそこ接して、自分の足元を固めて向上していくのが大切なんです。こんな世の中です。うまく泳がなきゃあ、はははっ」
 『時報』の言うとおりだ。彼は来年度の三年生の学年主任候補にあげられている。どういう加減か、教頭から気に入られている。盆暮れのつけ届けでも欠かさずやっているのか。確かに世渡り上手なようだ。大きな自分とのギャップを感じつつ、同時に青山は怒りもコントロールせねばならなかった。
 「そりゃあ僕だって出世したいし、お金も欲しい。しかしですよ、人を不幸にしてまで成りあがっても後味の悪さだけが残ります。そんなことはしたくありません」
 「先生のクラスにいた沢口ね、…あいつには私もほとほと手を焼いていたんですョ。授業中に居眠りする、果ては漫画は読み出すわ、暴力沙汰もあったようですね。沢口の父親がPTA会長だったのがいけませんでしたな。しかし先生はまず、父親を会長の座から引きずりおろされてから、自分の学級から異端児を追放なされた。大した政治的手腕だ。まだお若いのに」
  奥津は本気で青山の、今度の件をほめているのだった。
 「たったひとりの生徒のために大勢を見殺しにできなかったんです。沢口はあの年で、やけに世慣れているところがありました。大勢を引っぱる、影響力のある生徒がいい具合だったら何も問題ありません。放っておいても大丈夫でしょう。それは奥津先生もご存じですね。…しかし逆だったから、今回のような大ナタをふるう必要があったわけです。ですから校長にもお力添えいただいたんですよ」
 「まったく…青山先生は、指導者としてまことにすばらしい資質をお持ちだ。私も爪の垢を煎じていただきたいほどですなァ。腐った株を切り捨てて残りを生かすんですな。参考になりましたよ」
 『時報』は、感じ入った様子だった。
 「あんなことはしたくありませんでした。ほかに方法が見つからなかったからやったにすぎません。それに、何も沢口ひとりが腐っていたわけじゃありません。根っこにあるものを取り除かないかぎり、彼女のような生徒は際限なく出るでしょう」
 西陽が職員室に回ってきた。初冬のそれは奥津と青山の表情を半分ずつ、黄金色に浮き立たせた。
posted by はむじの書斎 at 15:39| Comment(1) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
らりほーとはラリホーで検索
違うブログをはむじさんのブログと思っていました。
こちらもやっとらりほーを見る事が出来ました。
こちらは文学のにおいがするぶろぐですね〜〜〜。
チョクチョク寄らせて貰います。
Posted by DAWN1963 at 2009年07月29日 04:35
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