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2009年10月28日

異界皇子  別ヴァージョン

 筆者の都合により、「異界皇子」は2〜3日休筆とさせていただきます。
 現在、第5章の追加分を執筆中だからです。
 楽しみにされている読者の皆さんには申し訳ありません。
 第5章の後は、怒涛の第6章が(最終章)が。
posted by はむじの書斎 at 17:49| Comment(0) | 小説・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月25日

異界皇子 第5章 妖虫

 「けっ、ババアの奴、何もかもが思い通りにできると信じてやがる」
 「おまえは恨んでないのか、私が過去にしたことを」静かに吐駁は言った。
 「恨まねぇ、って言ってもらいたいのか。過去のことだろう。止むに止まれなかったんなら、仕方のねえことだろうが」
 「すまない」
 「…あやまってもらっても困るぜえ。問題はこれからだろう。ババアとも決裂したしよぉ」
 「そうだな」
 吐駁は心の中で、(魅蕾爺にこいつを託してよかった)と、つぶやいた。
 「じゃ、そろそろ行こうか。戦場に」
 「待て、丸腰で戦う気か。いくらおまえでも武器なしでは命がいくつあっても足りぬぞ。用意したものがある」と、前王は指を真上に一本立てた。灯火がひとつ点る。
 実の息子が芸当に見とれていると、彼は壁際に歩みよった。そこに据えられていた鼠色の細長い箱がきしみ、錠前がはじけ、腰帯のついた剣を取り出す。
 「これは爺からの贈り物だ。おまえが使うためのな」
 手渡されたそれはずしりと重く、閻浮は一種の念波を感じた。鞘から抜いて軽く振ってみる。
 「“汰迅炎剣(たじんえんけん)”、伝説の剣だ。おまえの思念に感応し、きっと役立つはずだ……ん?!」
 「おいでなすったようだぜ、王様よ」
 両側の階段方向から、ざわざわと何者かが接近してきている。獅子ふたりは警戒感に全身の体毛を逆立てた。まだ見えぬが、確実に距離は縮められている。
 「どうする、吐駁王?」
 彼の腰にはすでに風迅雷剣がさがっている。閻浮もまた、それと同等の力を持つ宝剣のついた腰帯を金属製の胸当ての下、直垂(ひたたれ)の上に巻きながら尋く。
 「答えはひとつ、ここは突破だ」
 「ちょっと待った」
 と、若獅子は頭をうなだれた少年のもとへ駈け、マフラーだけをするりとちょうだいした。
 「世話になった」
 軽く一礼し、それを自らの首に巻く。
 獅子の父子は背中合わせとなった。両名の抜いた剣の先に、波打ったような無数の妖虫どもが迫ってきていた。 
タグ:吐駁 閻浮
posted by はむじの書斎 at 13:11| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月23日

異界皇子 第5章  ビジョン

  闇に支配されていたのは地下鉄駅構内も同じである。
 夜目の利く異界のふたりも、まったくの黒一色では何も見えない。
 不意に、輪郭のぼけた像が彼らの眼前に出現した。
 黒地に金の刺繍が入った王族の衣装   貌は牝獅子のものである。皇太后・颶艶であった。
 「て、てめえは!」
 若獅子は血が沸きあがり、眥をつりあげた。片目にはアイパッチがあるが。
 年長のほうは無言である。
 「あなたの愛しい息子と一緒とはね……吐駁」
 突然の暴露に、閻浮は面食らった。
 「へっ、何を言いだすかと思ったらよー、それでオイラを動揺させようったって無駄だぜ」
 「ほほほほっ、私は真実を告げているのよ。そこの男に尋いてみることね」
 虚像には違いないが、颶艶の姿は灯火がわりとなって吐駁と閻浮、両名を闇のなかに照らしている。年少獅子は前王を見やった。
 「…そのとおりだ。閻浮は確かに私の血をひいている」
 吐駁の告白に、一瞬閻浮は耳をうたがった。それは虚言とは思えなかった。だからなおさら。
 「しかし、幸いなことにお主の血は混じっていない」前王は颶艶に向かっている。
 「ついでに白状しておくが、…閻浮、おまえは私と妾の間に生まれたのだ。しかし、あちらの世界の掟では、正式な子以外は処分される。私は一計を案じ、おまえを魅蕾爺に預け…」
 「もういいよ」
 若獅子は彼のことばをさえぎった。
 「オレが誰の血をひいていようが、やることはひとつ……これから闘うことよ」
 「よくぞ言った」吐駁は息子の決意を後押しした。
 「おやまあ、美しき親子の情愛ですこと。それより、お前たちたったふたりで何ができるというの。いいかげん強情は引っ込めて、ともに人間界を支配するのを手伝いなさい。無用の血は、お互い流したくないでしょう」
 「今さらよく言うぜ。テメエこそ、こっちにちょっかい出すのやめたらどうなんだ」
 「おだまりっ! 青二才は」
 颶艶の瞳は緑色に、爛ときらめいた。
 「私も閻浮と同意見だ。お前の野望に手は貸せぬ。知っているぞ、お前がこの街に“死の六芒星”をつくりあげようとしていることぐらいはな。それを拠点に、この国、さらにこちらの地上全部を手に入れるつもりだな」
 「現実を見ることね。私の、そしておまえたちの母なる世界は消滅しようとしているのよ。どこか別の場所に安住の地を求めて何が悪いというの。人間という種族とは遺伝子も、思想も文化も、すべて獣族とは相容れないもの。だから滅ぼしてあげるわ…私が」
 「ずいぶん勝手だなあ、テメェの欲じゃねーか。そんなのはよ」
 「颶艶、おまえは変わった。以前の美しい姿はどこにいった。私利私欲で動く女ではなかったろうに」おだやかに吐駁は諭した。
 「………」
 「手を退くのだ。人間界から。あちらが滅ぶのが造り主様のご意志なら、それにしたがうべきだ。異世界を巻き込んで犠牲を出すものじゃない」
 「…ふふふ、交渉決裂ね。これであなたがたの運命も決まった。その頑迷な心は死をもって贖ってもらうよ」
 蒼白い蛍光を発しながら、牝獅子の姿はかき消えた。
 二対一のやりとりは終わった。おそらく、颶艶は得意の魔術で幻影を飛ばし、姿を見せたのだろう。
タグ:颶艶
posted by はむじの書斎 at 22:54| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月20日

異界皇子 第5章  停電

 市街・西のはずれにある中江家。
 シンデレラが家に帰るまで、あと30分という時間である。玄関は二重ロックしてあった。
 良彦はTVチャンネルをリモコンでせわしなく替えてみた。「乗っ取られた」局以外では市内中心部の屋上からの俯瞰、そして東京からの報道特別番組を流していた。
 ついさっきまで、綾はベランダに出て、下の様子を観察していた。パトカー・消防車・救急車のサイレン音に混じり、どこか遠くから絶叫が聞こえた。また、近くで2ヶ所から火の手が挙がっていた。三日月と星のもと、この街がどうかしてしまったのが肌を通して伝わってきた。
 彼女は母親から注意される前に、怖くなって居間に取って返し、カーテンをかたく閉じた。
 「お父さん、だいじょうぶかなあ」
 ソファの良彦が天井を見上げながらつぶやく。
 「信じましょう。純一君が見つけてくれるかも知れないし」
 言ってはみたものの、里子は居間の電話がいまだに鳴らないことに焦燥と不安をつのらせている。それはもちろん『亭主は無事』という知らせだ。
 綾は無言だった。そのかわり、ひとりで持て余すほどの不安といとおしさを抱えていた。この街がたとえめちゃくちゃになっても、純一、正確には彼の内側に宿る「閻浮」に無事でいてもらいたかった。また、彼からの念波も受信できなかった。(きっと、どうかしちゃったんだわ)・・・
彼女の胸は、こみあげる熱さでいっぱいだった。
 テレビ画面は消失した。同時に明かりもなくなった。突然の停電。
 「懐中電灯は」
 「ろうそく、ろうそく」
 「待って、持ってくるから」
 暗闇に三人の声が谺(こだま)して、母親はキッチンから電灯、良彦は和室の仏壇からろうそく、綾は手さぐりで自分の部屋へ行き、CDラジカセを抱えてきた。彼女はそれのプラグをコンセントに接続しようとしたが、はたと間違いに気づいた。
 応接セットのテーブルに、良彦がライターで点(つ)けたろうそくの火が空気にゆらぐ。
 当の良彦は、かきわけたカーテンから外をうかがっている。
 「火事以外は真っ暗だよ、街灯まで消えてら」
 「母さん、こっち照らして」
 ラジカセには単一乾電池6個が必要だった。
 「電池、どこ?」
 母は懐中電灯を娘にあずけ、ソファから腰を浮かした。居間のサイドボード、一番下の引き出しをかき回す。つまみ出したのはビニール袋に入った、さまざまなサイズの電池である。
 綾はそこから単一電池を選った。運がいいことにちょうど6個あった。
 スイッチオン。AMラジオでひとつの局をチューニングする。
 「……ており、群衆は札幌市中心部にぞくぞく集結中との情報が入りました。自衛隊と機動隊は非常線を張っており、催涙ガス銃などで対応しましたが、多数はそれをくぐりぬけ、なおも中心街に向かっているもようです。
 くりかえし申しあげます。午後10時、市内全域に戒厳令が敷かれました。緊急時以外の外出は極力避けてください。外は大変危険です。
 なお、市内の大部分で、ただいま停電が発生いたしました。市民のみなさんは、どうか電池で使用できるラジオで情報をお聞きください。くわしい情報が入りしだい、詳細をお伝えできると思います……」
 かなり以前、ニューヨークで大停電が発生した。だがそれはこのような状況下ではなかった。あくまでも単発事件だった。
 その10か月後、摩天楼の都市には時ならぬベビーラッシュが到来したという。
 人びとは大多数がろうそくや懐中電灯など、弱々しい光源を頼りにその時をすごした。前もって告知されていたなら、それはなかったのではないか。不意だということ、そして夜が人びとにとって本来の姿を見せたことが、人間の大脳の奥底に働きかけた結果かもしれない。
 しかし、中江家の人びとも、市内190万の人びとも、ロマンチックな気分にひたっていられないことは確かだった。
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2009年10月18日

異界皇子 第5章  官僚集団は

 北部方面総監部では・・・。
 巨象は国道をまたぎ、軍用トラック二台の簡易バリケードを鼻と巨体で押しのけ、ついに正門に到達した。
 中核棟につながる広い舗装路、そこに並んだ4門の重機関銃がけたたましく唄う。弾幕の霞のなか、それの進撃は止まったかに見えた。
 しかし、隊員らの期待は霞が晴れるとともに霧消した。(皮膚が装甲されている!)と疑う間もなく、「マンモス」は兇暴な本性を顕した。長い鼻で機関銃を払い、雷鳴のように吼えながら逃げまどう守備隊員らを追撃した。
 鉄兜の隊員ひとりが太い生きたロープに胴体を巻かれる。彼は次に天高く持ち上げられ、そのまま後方に投じられた。人身のライナーが止まったのはブロック塀のかたいミットだった。隊員は即死した。
 総監部の入口左は、そこで働く隊員らの食堂などが入った建物である。右は備品などが納まる倉庫だ。その間を「マンモス」は縦横無尽にあばれまわった。ジープが2台ひっくり返り、ナトリウムランプは3本へし折られた。
 建物の陰から地響きがする。マンモスのものではない。戦車が一台、キャタピラ音を軋ませながら出現した。隊員らは散り散りになり、「標的」だけになった。
 重火器の砲身が回転し   105ミリ砲弾の発射音がどかんとあたりを揺るがす。狙いは正確だった。胴体中央に着弾の花が咲き、さしもの巨獣も、衝撃で横倒しになった。
 今度こそ敵は斃れた   はずであった。しかし、砲兵は信じがたいことを見ることになる、頭を一度くらっと振るや、それは起きあがったのだ。巨獣は猛然と突進してきた。操縦兵はあわてて車体を後退させたが、手遅れだった。巨大な牙が正面の車体とアスファルトの間に食い込み、それはひっくり返った。7トンもの重量が。
 「緊急対策本部」は急遽、3階から地下に移動した。
 予想外の敵の来襲にそなえ、核シェルターの役目も兼ねるそこに“避難”したのだ。先ほどの部屋とは違い、閉塞感は否めない。それでもTVモニターと、北海道全域、この市を示すパネルとがあり、北部方面総監、知事、市長、道警本部長など、歴とした肩書をもつ面々が応接セットに、ほかの者たちはガラスの壁一枚へだてた司令部に詰め、事のなりゆきを把握しようと懸命になっていた。お世辞にもピクニック気分ではなかったが、市長など、母親にこっぴどく叱られた幼児のようにしおれていたものだ。
 そこに一瞬、微震が発生した。
 ほんのわずかな揺れののち、下士官が一人、蒼くなって応接間に入ってきた。
 「マン……いえ、象は重火器も歯が立たず、ただ今、この建物の玄関を破壊しました」
 本部長はすぐに命令できず、知事にいたっては(どうやってここから逃げ出そうか)と、本気で考えるのだった。
タグ:マンモス
posted by はむじの書斎 at 18:13| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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