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2009年09月29日

異界皇子 第4章  綾の家で1

 異常事態が発生していたのは、何も中心の官庁街に限ったことではない。
 時折、綾に肩を貸してもらい、やっとのことでマンション8階にたどりついた、見かけは男子中学生がいる。
 呼び鈴で玄関に出た里子は、蒼ざめた貌の純一と娘を見てとり、ただごとではないと思った。買ったばかりのめがねをかけた良彦まで出てきた。
 「すいません、ちょっと休ませてください」
 「あ、紹介するわ。彼、私のクラスの館林純一君。ちょっとこの先でケンカに巻きこまれちゃって、ちょうど私が通りがかって助けたの…」
 「まず入って。街なかが大変よ、お父さんの会社に何度も連絡取ってるけど、全然通じないの」
 「今、テレビでやってるよ」
 「とにかく綾は無事で何よりだったわ」
 純一を不審に思うゆとりもないのであろうか、母親はせかすようにふたりを居間に招じ入れた。
 「おじゃまします」
 綾の先導で、美貌の男子中学生がソファに腰を沈めた。
 彼はあいさつしながら、彼女にかるくウィンクした。外見は純一の中学生、実は閻浮   は、勝手のわかっている室内をあらためて見回すふりをした。
 「ごめんなさい、帰り遅くなっちゃって」
 綾の額のコブは自分でも知らぬ間に退いていた。肝腎の本人がそれを知らないぐらいだから、母にも弟にも見とがめられることはなかった。
 「いいの、いつか帰ってくると思ってたから。それよりお父さんが心配よ。さっき変な放送は流れるし、別のチャンネルで『中心部に出かけないように』って言ってたの。どちらを信用すればいいのかしら」
 「変な放送?」
 美貌の男子中学生は、わずかに泥のついた学生服を脱ぎながら綾の母親に尋いた。
 「女のアナウンサーが、不気味なことを言ったのよ」
 「中心部はわれわれ火星人が占拠しました、ってさ」
 「これ、この子ったら! おかしなこと言うもんじゃありません」
 良彦はすぐにやりこめられた。しかし彼は半信半疑だったのだ。彼に限らず、この街やそのほかの地域にも、現実を呑み込めていない者がかなり存在したのも事実だ。
 居間には横長のTV画面がつけっぱなしだった。
 おそらくヘリコプターからのものだろう、上空からの映像があった。夜景が展がっているが、そのところどころから火の手が挙がっていた。それらの間隙を縫い、走り回っている人間たちの姿もかすかに見えた。
 「この騒ぎは、この街だけですか」
 少年は画面に喰い入りながら里子に尋いた。
 「…え、あ、そうみたいよ」
 純一は怖い表情をしていた。若干やつれた感じがあるものの、鬼気迫るほどの美貌に真剣さが磨きをかけていた。里子でも照れくさくなるほどに。
 「街の中心部に大きな水たまりか、池がありますか」
 「…あ…あるわ。中島公園か道庁の池」
 綾が宝箱を見つけたように叫ぶ。
 「おかしな放送を流していた局は、どちらに近いですか」
 「たしか道民テレビだから、道庁のほう」
 良彦はすぐに答えた。
 「アヤ、悪い、急用ができた」
 「どこ行くの」
 「あそこだ」
 すでにソファを立っている純一は、TV画面を指さした。
 「今はだめよ。立ち入り禁止になってるわ。身体も充分じゃないし」
 彼の身の上を案じる綾。
 「この状態、放っておけるか。このままだと街は地獄になっちまう、と思ったら元気が出てきたぜ」
 母も弟も、少年の発言にさして衝撃は受けなかった。動揺したのは綾だけだったが、すぐに彼女はあることに勘づいた   そうか、操心術よ。
ラベル:変な放送
posted by はむじの書斎 at 13:53| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月27日

異界皇子  お待ちかね?!の読者のみなさん

  わけあって、「異界皇子」は休載中です。著者のわがままです。
 「反響」がないので、ヤル気を半分なくしていたのです。
 新規巻き直しで、また明後日あたりから掲載したいのですが、どうなることやら。
 でも、皆さんの励ましを糧にしたいです。
posted by はむじの書斎 at 20:39| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月24日

異界皇子 第4章  交換装置

 「霊氣の交換装置」は発動した。
 北の都での怪はすでに人間界の電波という通信手段によって各地へ伝えられ、テレビ各局は始まったばかりのプロ野球ペナントレースを、どうでもよいドラマを大騒動の画面へと吾先に切り替えた。
 「原因は不明ですっ、とにかく人びとが狂ったとしか思えません。この先どうなるのかまったく予想がつきません」
 とある局での、アナウンサーのコメントだ。
 現実的、物理的な側面からすると、庁舎前の池底は泥の堆積で、せいぜい掘り下げたところで粘土層か石ころにあたる程度だろう。
 しかし、「時の壁」は存在するのだ。閻浮も魅蕾もそこを通りぬけて来た。
 虹色の空間。巨大な灰色の賽を積み上げたような「王城」が下部を川面のゆらめきに接し、逆さまに浮かんでいた。ちょうどその上が「池」である。
 人間界と獣人たちの住む世界を分けへだてる、いわば緩衝地帯は宇宙区間と同じく、上下左右が決まっているわけではない。
 皇太后はわが居室から、人間界の一部で起きている狂騒をながめやっていた。巨(おお)きな水晶球・「大瓊」を通して。
 「ふふふ、人間どもめ、ただあわてふためいておるわ…。われの送りし者たちに防禦法はあるまい。ただ物質面だけの“科学”では太刀打ちできず、黙って受け入れるしか能がないのよ」
 王宮の改修工事とは、実は中腹に推進機を取りつけることだった。賽を積んだようなそれは荒涼たる土地からロケットとなって発進し、「時の壁」に、ついに密着した。
 今や彼女の周りにはごく少数の護衛と侍従しかいない。重臣も下臣もほとんど全員が殉死という形で自殺し、魂だけが王宮内部の巨大な壷に封入されていた。その数は七である。亡骸は畜生界の地上にある。それらはもう、どうでもよいものであった。どのみち滅びる場所だ。
 水晶球は皇太后・颶艶の思うままに光景を映しだしている。
 数十人の男女が、ある放送局に押しよせる。彼らが次にしたことは、公共の電波に自分たちの意思を乗せることだった。
 臨時放送が開始された。
 「皆の者、よく聞くがよい。この地域はすでにわれわれが占拠した。抵抗はむだである。そのためのいかなる努力も、発想も水泡に帰すものと思え。以降の指示は、随時この局から流すものとする」
 普段はブラウン管の向こうから、にこやかに語りかけてくる女性アナウンサーは、一点を凝視しながら宣告した。
 「今はまだ序の口、これからが本番なのだ……」
 颶艶は愉悦に、口から牙をむきだすのだった。
ラベル:颶艶 占拠
posted by はむじの書斎 at 16:43| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月23日

異界皇子 第4章  灰

 虎猫はびっこを引きつつ、悄然としている純一のもとへ歩んでいった。
 (…爺、オレはどうやら、……この猫から出なきゃあならねえ)
 戦いが済んだ夜の児童公園で、閻浮は弱々しく念波を飛ばしてきた。青山の内側に宿った異界のライバルから受けた強烈な一撃は、“オンジー”という猫の肝臓を壊し、その肉体はすでに閻浮の霊魂を受けいれなくなっていた。
 「…閻浮よ、よくやった。わしはもうよいのだ。今度はおまえがこの少年の身体を借り、奴らめの侵略を阻止するのだ。よいな」
 豸魄の猛攻撃に堪えた館林純一、中身の魅蕾は公園の地べたにぺたりと座ったまま、意を決して言った。虎猫は言葉もなく、それを受け入れた。
 綾は現場に戻ってきていた。一度家へ帰ろうとしたものの、純一とオンジーがどうしても気になった。また、青山先生のこともある。
 重大な結末は目にも明らかだった。館林君と彼に寄り添う猫の前に、腹這いに倒れている先生らしき人。やや離れ、仰向けになって失神しているふたりの制服警官。
 周囲の家やマンションの窓や玄関が一時開いたものの、それらは再び閉じられ、静かになっていた。
 彼女は駈けだした。オンジーは四肢を投げだし、動かなくなっていた。館林君もだ。しかし、別の動きがまず館林のほうに生じた。白く、もやもやするものが彼の上半身から出る。それに呼応するかのように、猫の身体からやや青みがかったそれがゆっくりと出てきた。
 肉体を離れた双方の「雲」は、夜気の中でいったん合流し、青みがかったものは純一へ、もう一方は空へ昇り、かき消えた。
 気絶状態であった純一の眉がぴくりと動く。
 「館林君!」
 「はずれだなあ」
 「…じゃあ?!」
 虎猫に手をやった綾は、倒れている先生に目をやりながら息を呑んだ。
 「その猫は死んだよ。かわりにオレが爺と入れ替わった」
 純一の視野に二筋の白光がかすめた。それは地面に倒れていたふたりの警官に入っていった。彼らはむくりと上半身を起こし、こちらを怪訝そうにうかがった。
 「やべえ、ついに発動しやがったか」
 「逃げるのよ」
 綾は少年の手を引き、公園を脱出した。
 それから間もなく、公園のほぼ中央部で小規模の火災が発生した。青山紀世という名のあった男の身体がひとりでに発火し、碧い燐光とともに灰となっていった。
posted by はむじの書斎 at 22:17| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月22日

異界皇子 第4章  憑依

 北海道庁    「赤レンガ庁舎」の別名のある建物は、美しい前庭とのコントラストで観光客に人気のスポットである。前庭には二つの池があり、新緑、紅葉の季節ともなれば、絵筆をカンバスにすべらせるアマチュア画家の姿もその周囲に数多く見られるものだ。 
 北の都、その一角にある児童公園での死闘がひとまず終息したころ。
 春まだ浅い池のひとつの水面が不意にざわめき、波打った。午後8時30分過ぎのことである。
 ライトアップされた赤レンガ庁舎と、残業の蛍光がモザイク状に灯る背後の本庁舎。それらと周囲の街明かりの反射は掻き乱された。ざわついた水面から、“鬼火”が出現した。
 職場から家路につく人びと、前庭そばの道路を走る車中の人々らが異変を察知した。
 「おや?」とばかり、水面を注視すると、すでにそれは碧白く光り、長く尾を曳くものが空中に発散していた。その数は数百、否、千の大代に達していただろう。
 蜘蛛の仔が競い合って巣立つように、それらは水面を打ちあがった。まず紐のように連なり、ほぐれ、あるものは遠方へ、そして一部は近くの通行人らに取り憑いた。
 それら異常な光景を目にできたものは、ほんの少数派である。なぜなら、よける機会もあたえられずにほとんどが「憑依」されてしまったからだ。
 “鬼火”は、性、年齢の別なく、首回りから人間たちの内部に侵入した。すでに「豸魄」に縛られていた者は、それと入れ替わった。憑依された男女は、数秒間のたうち回ったあげく、その眼に共通して異質の意識を宿した。人間の眼を通して異界を見、肺腑で異界の空気を反芻する。
 車を運転中の者は不幸であった。まともな意識は追いだされ、代わりに別の意識が支配する間際に追突、人身、暴走など各種の事故を起こし、大半の車がへこんでしまった。
 その反面、身体はどれだけ血を流そうと、打撲しようと、骨を折ろうと、苦しむどころか、にやりと口もとをつりあげ、眼は爛と光らせて車外に出た。
 街は数分で狂騒と混乱の渦にのみこまれた。
 信号機はあっても、それは何ら交通を制御できなくなった。
 中心部の各店舗   銀行、ホテル、放送局の玄関・ロビーなどの高価なガラスが常軌を逸した力で割られ、氷片になる。
 呼応するように警察が出動したが、それら暴徒の鎮圧は、絶対数と兇暴さで困難をきわめた。警官隊・機動隊の中にも「憑依」された者がいたのだ。
posted by はむじの書斎 at 13:34| Comment(0) | エンタメ・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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